■12月20日日本経済新聞シニアサポーター『日本語教師,「第二の人生」…来年度から国家資格に』

シニアサポーター日本語教師、「第二の人生」 独学か学校、自分に合う選択を

・・・・来年度から国家資格に・・・・

 定年退職を間近に控え、セカンドキャリアの選択肢として日本語教師に関心があります。2024年4月から国家資格になると聞きました。時間に余裕があり、早めに資格取得の準備をしたいと思います。制度の移行期にあたり注意すべき点を教えてください。

「例文の中で適切な表現はどれでしょうか」。12月上旬、東京中央日本語学院(東京・新宿)の教室で、男性教師が中国やベトナムなどから集まった留学生に日本語を教えていた。
教壇に立つ樋田康志さん(68)は日本語教師になって8年目。非常勤講師として1回3時間の授業を週3回担当する。「生徒に合った授業内容を考え、成長を見守るのが楽しい」と声を弾ませる。

留学生に日本語を教える樋田さん(東京都新宿区)
留学生に日本語を教える樋田さん(東京都新宿区)

前職は東芝プラントシステムの技術者。中国で公共施設の工事に関わった経験を機に、教師となって国境を越えた交流を深めたいと目標を定めた。働きながら通信制大学に通うなど準備を進め、定年退職後に教師の道に進んだ。樋田さんは「様々な国籍の生徒の価値観に触れ、世界が大きく広がった」と目を輝かせる。

■60代2割超で最多
文化庁の22年度調査によると、日本語教師は全国に約4万4千人。そのうち60代が21.9%と最多で、50代以上は全体の半数以上を占める。
東京中央日本語学院の徳田淳子マネージャーは「(日本語教育の現場は)社会人経験が豊富なシニア層が支えている」と話す。
教師の魅力の一つは学生への指導力があれば年齢を問わず活躍できることだ。樋田さんは「75歳まで教えたい」と意気込む。日本語の教育現場では英語など外国語を使うことが必ず必要ではなく「どんな人でも活躍の場がある」(徳田氏)。
家族の介護をしながら自宅でオンラインで教えるなど、柔軟な働き方を選べるのもメリットだ。現在、日本語教師は民間資格だ。法務省は主に3つの方法による資格の取得を認める。

1つ目は日本語学校などでの日本語教師養成講座(420時間以上)の受講。ただし学士以上の学歴が必要になる。2つ目は日本語教育能力検定試験の合格。
もう一つ、大学で日本語教育を専攻する方法もあり、4年間通うのが基本だが、学歴によって短い期間で単位を取得し卒業できる場合もある。
22年に留学で日本に入国した人は16万7千人と、新型コロナウイルス禍前の19年(12万2千人)を上回った。日本語教師の需要が高まり、教師の質と量の確保が求められ、民間から国家資格へ法整備が進んだ。

■経過措置、研修免除も
日本語教育機関認定法が5月に成立。24年4月から国家資格「登録日本語教員」が新設される。国内の日本語学校などで教える場合は国家資格試験に合格する必要があるため、教師になる「ハードルが上がる」(文化庁担当者)とみられる。
国家資格の取得には独学で試験に挑むルートと大学や専門学校など養成機関で学ぶルートに大別される。
試験ルートの場合、基礎と応用の筆記試験に合格した後、国の指定機関で実践研修(教育実習)を受ける。養成機関ルートの場合、基礎の筆記試験は免除される。新制度の試験は24年秋ごろに予定されており、学歴要件はなくなる方向だ。

サイト「日本語教師ナビ」を運営するパセリ(東京・千代田)の三宅弘一氏によると「養成機関ルートの場合、講座の受講料は現行制度の相場で平均50万~60万円」という。試験ルートでは、法律で定められた受験料や実践研修などの費用を合わせると10万円前後かかるとみられる。
試験の条件は個人で異なり、学校によって費用は違うので確認が必要だ。新制度の具体的な内容は決まっていないことも多いが、「教師を目指す気持ちが固まっていれば早めに準備を始めることも選択肢の一つ」と三宅氏は背中を押す。
29年3月までは経過措置があり、それまでに日本語学校などで1年以上教えた経験があれば実践研修が免除される。現行制度で学んでいる人や資格を取得したばかりの人も、「措置期間内に働けば免除の対象となる」(文化庁担当者)。
情報収集をしながら国家資格取得に向けて、自分の生活と照らし合わせて、無理のないルートを選ぶことが大切だ。
(田辺アリンソヴグラン)